『閃光のナイトレイド』についてのあれこれをだらっと書いていきます。
まずは一番上の記事「どうもこんにちは」をお読みください。
勲葛がだいすきです!
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葛の風呂が終わるまでの間。
手持無沙汰な葵は、しっかりと着込んでいた上着を脱ぎ、抱えていたウオッカを早速開けることにした。
備え付けの電話を鳴らし、氷を持ってくるようフロントに頼んだ。
どかりと上等なソファに腰を下ろし、ふうと息を吐いたら前髪が天井に向かって靡いたのが視界に入った。
そのまま天井の意匠を眺め、ゆっくりと視線を部屋の中に巡らせる。
(…やっぱり、ちょっと照れるな…この雰囲気)
葛にはああ言ったが、葵は最初からこのスイートを取っていたのだった。
葵の視線は、矢張り天蓋のついた豪奢なベッドの前で止まった。
二人で寝るには、充分すぎるほどの大きさだ。
あと少ししたら、石鹸の香りをさせた葛の身体が、あの上に横たえられるのだ。
知らず締まりのない顔をしていた自分を、鏡台の鏡の中に見つけた葵は、あまりのだらしなさにはっとして思わず咳払いをした。
そのとき、コンコンとドアがノックされ、丁寧に氷が運ばれてきた。
ホテルマンに軽く礼を言い、その姿がドアの向こうに消えたのを認めると、葵はウオッカの瓶を開け、グラスに注いだ。
からん、と涼しげな音を立て、グラスの中の氷が微かな水流の中で揺蕩う。
葵がグラスに口を付けたとき、ばたんと浴室のドアが開いた音がした。
気になって仕方なかったが、敢えて葵は葛が現れるであろうリビングの入口のほうは見ず、ごくりと喉を鳴らして口に含んだウオッカを嚥下した。
その冷たい液体が掠めた喉の奥が、かあっと熱くなる。
気配を感じて、葵は視線を上げた。
「…葛」
思わず、大丈夫か?という言葉が口を突いて出てしまったくらいに、そこにいた葛はいつもと違いすぎた。
赤く染まった頬。
風呂上りでも普段は撫で付けているぬばたまの黒髪は、無造作に垂れている。
潤んだ瞳。
なんだか、いつもの壁が、ない。
(これなら、いけるかも…)
楽観的な葵は、そう思った。
「葵、おまえもさっさと風呂に入れ」
さっきよりも掠れた声で、葛は言った。
「そ、そうだな!」
早く葛と一緒に床に就くために、葵は素直にそれに従う。
ばたばたと慌ただしくバスルームに向かった葵だったが、すぐに再びドアから顔を出した。
なんだと葛は不審をあらわにし、一瞥した。
「すぐ、出てくる!」
そう言って、にっと笑って去って行った葵に、葛は「別に待っていない」と呟いた。
しかし、声があまりに掠れて、その呟きはほとんど言葉にはならなかった。
葛は潤んで熱くなる眦と、重たくなる頭と身体に、これは久しぶりに風邪らしい風邪をひいたと実感した。
南の上海から凍土の国満州へ向かうと聞いたとき、その寒さは内地と比にならないと思い、こんなこともあろうかと『美味改源』を荷物に入れてきたが、それが役に立つときが来た。
心なしかふらつく足取りでその薬を荷物から探り当て、グラスの置かれたテーブルに載せた。
普通は茶で飲むのだが、今はそんな時間があったら早く横になりたかった。
スパイ稼業は、そう甘くない。
体調不良だろうがなんだろうが、いつどんなことが襲い掛かってくるかは運次第だ。
さっさと風邪を治すに限る――――
葛の頭の中は、その考えでいっぱいだった。
熱くなった指先で茶紙の口を開き、いっきに粉を呷る。
そうして、お誂え向きにグラスに注いであった『水』を流し込んだ。
粉薬は上手く流してしまわないと、後始末に手を焼く。
だから、グラスの中に入っていた『水』を、全部飲んでしまった。
(え)
瞬間、葛の身体を違和感が包む。
慌てて口を塞いでみても、何の助けにもならない。
ぐにゃりと歪む視界の中で、グラスだけは割らないようにと何とかテーブルの上に置く。
(しまった…)
床ではなく、せめてベッドの上で倒れたい。
(くそ、葵のやつ…)
実際葵に落ち度はまったくないのだが、熱に浮かされた葛の思考回路は、若干短絡的になっているらしい。
そう、葛が水と勘違いして飲んでしまったのは、葵がちょっと口をつけて残したウオッカだったのである。
そもそもそれを水と信じて疑わなかった自分の不注意だということは、充分わかっていた葛だったが、もしや葵が気を利かせて風邪薬を飲むための水を用意してくれたのかもしれない―――などとふと考えてしまった己の愚かさに辟易した。
立っていられないほどの酩酊感をぐっとこらえ、何とかベッドまでたどり着いた葛は、その上に倒れこむと、苦しげに眉を寄せ目を閉じた。
身じろぐたびに密やかにする衣擦れの音は、葵には届くはずもなかった。
つづく
手持無沙汰な葵は、しっかりと着込んでいた上着を脱ぎ、抱えていたウオッカを早速開けることにした。
備え付けの電話を鳴らし、氷を持ってくるようフロントに頼んだ。
どかりと上等なソファに腰を下ろし、ふうと息を吐いたら前髪が天井に向かって靡いたのが視界に入った。
そのまま天井の意匠を眺め、ゆっくりと視線を部屋の中に巡らせる。
(…やっぱり、ちょっと照れるな…この雰囲気)
葛にはああ言ったが、葵は最初からこのスイートを取っていたのだった。
葵の視線は、矢張り天蓋のついた豪奢なベッドの前で止まった。
二人で寝るには、充分すぎるほどの大きさだ。
あと少ししたら、石鹸の香りをさせた葛の身体が、あの上に横たえられるのだ。
知らず締まりのない顔をしていた自分を、鏡台の鏡の中に見つけた葵は、あまりのだらしなさにはっとして思わず咳払いをした。
そのとき、コンコンとドアがノックされ、丁寧に氷が運ばれてきた。
ホテルマンに軽く礼を言い、その姿がドアの向こうに消えたのを認めると、葵はウオッカの瓶を開け、グラスに注いだ。
からん、と涼しげな音を立て、グラスの中の氷が微かな水流の中で揺蕩う。
葵がグラスに口を付けたとき、ばたんと浴室のドアが開いた音がした。
気になって仕方なかったが、敢えて葵は葛が現れるであろうリビングの入口のほうは見ず、ごくりと喉を鳴らして口に含んだウオッカを嚥下した。
その冷たい液体が掠めた喉の奥が、かあっと熱くなる。
気配を感じて、葵は視線を上げた。
「…葛」
思わず、大丈夫か?という言葉が口を突いて出てしまったくらいに、そこにいた葛はいつもと違いすぎた。
赤く染まった頬。
風呂上りでも普段は撫で付けているぬばたまの黒髪は、無造作に垂れている。
潤んだ瞳。
なんだか、いつもの壁が、ない。
(これなら、いけるかも…)
楽観的な葵は、そう思った。
「葵、おまえもさっさと風呂に入れ」
さっきよりも掠れた声で、葛は言った。
「そ、そうだな!」
早く葛と一緒に床に就くために、葵は素直にそれに従う。
ばたばたと慌ただしくバスルームに向かった葵だったが、すぐに再びドアから顔を出した。
なんだと葛は不審をあらわにし、一瞥した。
「すぐ、出てくる!」
そう言って、にっと笑って去って行った葵に、葛は「別に待っていない」と呟いた。
しかし、声があまりに掠れて、その呟きはほとんど言葉にはならなかった。
葛は潤んで熱くなる眦と、重たくなる頭と身体に、これは久しぶりに風邪らしい風邪をひいたと実感した。
南の上海から凍土の国満州へ向かうと聞いたとき、その寒さは内地と比にならないと思い、こんなこともあろうかと『美味改源』を荷物に入れてきたが、それが役に立つときが来た。
心なしかふらつく足取りでその薬を荷物から探り当て、グラスの置かれたテーブルに載せた。
普通は茶で飲むのだが、今はそんな時間があったら早く横になりたかった。
スパイ稼業は、そう甘くない。
体調不良だろうがなんだろうが、いつどんなことが襲い掛かってくるかは運次第だ。
さっさと風邪を治すに限る――――
葛の頭の中は、その考えでいっぱいだった。
熱くなった指先で茶紙の口を開き、いっきに粉を呷る。
そうして、お誂え向きにグラスに注いであった『水』を流し込んだ。
粉薬は上手く流してしまわないと、後始末に手を焼く。
だから、グラスの中に入っていた『水』を、全部飲んでしまった。
(え)
瞬間、葛の身体を違和感が包む。
慌てて口を塞いでみても、何の助けにもならない。
ぐにゃりと歪む視界の中で、グラスだけは割らないようにと何とかテーブルの上に置く。
(しまった…)
床ではなく、せめてベッドの上で倒れたい。
(くそ、葵のやつ…)
実際葵に落ち度はまったくないのだが、熱に浮かされた葛の思考回路は、若干短絡的になっているらしい。
そう、葛が水と勘違いして飲んでしまったのは、葵がちょっと口をつけて残したウオッカだったのである。
そもそもそれを水と信じて疑わなかった自分の不注意だということは、充分わかっていた葛だったが、もしや葵が気を利かせて風邪薬を飲むための水を用意してくれたのかもしれない―――などとふと考えてしまった己の愚かさに辟易した。
立っていられないほどの酩酊感をぐっとこらえ、何とかベッドまでたどり着いた葛は、その上に倒れこむと、苦しげに眉を寄せ目を閉じた。
身じろぐたびに密やかにする衣擦れの音は、葵には届くはずもなかった。
つづく
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