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『閃光のナイトレイド』についてのあれこれをだらっと書いていきます。 まずは一番上の記事「どうもこんにちは」をお読みください。 勲葛がだいすきです!
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なあ葛、おれたちの未来は、 何処にあるんだろうね―――




「葵サン、嘘ついたな」
「え?」
別れ際、風蘭の思わぬ一言に、おれは動揺を隠せなかった。
不意打ちをくらったおれの顔は、きっと鰯の胆もかくやというほどの苦いものだったろう。
奉天で運命の(?)再会を果たしたおれたち。
わずかだが、久しぶりの楽しい時間を共に過ごした。
風蘭とやりとりをするうちに、ここには居ない人間の残滓が、おれの四囲を取り囲んだ。

想い出は、いつだって、残酷だ。
それを解き放つ鍵は、世界中其処此処に散らばっている。
ふと気付いてみれば、地雷源を歩いているようなものだと自嘲したくなる。

内地とは違う、大陸の風のにおい。
美味そうな饅頭の、温かい湯気。
それを売る美姑娘の、鈴を転がしたような笑い声。
聴覚や嗅覚で感じるものは、視覚で捉えるそれ以上に、人間の記憶を強烈に呼び覚ます。
それは、本人の意思とはまったく関係なく、いとも容易く裡に眠った鍵穴を抉じ開ける。
それに気付かぬ振りをすればいいのに、一度開いた扉はなかなか閉まらない。

嫌だな、こんな時に。
思い出したくないのにな。

「なにがあったか知らないけどナ、葛サンと、仲良くしなくちゃダメネ」
「何だよ風蘭、いきなり…」
「誤魔化そうったってそうはいかないネ、上海の美姑娘、なめちゃいかんゼヨ」
「ぜよ、って…」
「さっきから風蘭、葛サンって言うたびに葵サンなんだか変なカオしてたゾ」
「え」
「カオは口ほどに物を言うネ!」
「それを言うなら、目は口ほどに物を言う、だろ?」
「う…、ま、まあ、そんなことどうでもイイネ、風蘭葵サンと葛サンの、一見仲悪そうで実は仲いいトコ、スキね!だからふたりとも、風蘭のタメに仲良くシロ」
「命令かよ…」

そう言って、おれはため息混じりに笑った。
それを見て、風蘭も微笑んだ。
いつもの風蘭とはちょっと違う、落ち着いた笑顔だった。

「風蘭いつまでもこんなトコロでくすぶってナイネ、いつか上海帰ってまたお店出すヨ!」
「風蘭…」
「ダカラ、またふたりで風蘭の店、食べに来るヨロシ。いっぱいサービスするゾ!ああ、今度はあの二人も一緒ネ、四人揃って来るネ」
「風蘭」
「葵サン、約束ネ!」
今度はいつもの満面の笑顔で、風蘭は小指をおれに差し出した。
「コレ、日本式誓いダロ?」
「………」

何やってんだろな、おれ。
こんな娘っ子に励ましてもらってら。

「わかったよ、いつか、上海で!」
「オウ!絶対に絶対ナ!!嘘ついたら針千本ぶっ刺す、ネ!」

…それを言うなら、針千本飲ます、だよ、風蘭。

そうして、おれたちは固く指切りをした。

「謝々、風蘭」
おれは感謝の意を述べ、風蘭の頭に手を載せた。
「不謝、不謝!」
それと、写真も忘れないでね―――そう最後に言った風蘭を見て、おれは、彼女の背が少し伸びていたことに気が付いた。





なあ、葛。
上海の写真館のリビングで、おれたちはいっつもこんな他愛のないやりとりをしていたっけ。
おれと、おまえと、風蘭と。
あの家の、歪んで閉まりの悪い引き戸、リビングのテーブルについた傷、庭に咲くリラの色と香り…
そんな、なんでもない数々の記憶が、今、おれの中で渦巻いているよ。

なあ、葛。
おれはまだおまえに何も言ってないんだよ。
大切なことは、なにひとつ、伝えてやしないんだ。

なあ、葛。
おれはもっとおまえのこと、知りたいよ。
おまえの本当の名前、なんて言うんだろうな。
おれの本当の名前も、絶対に教えるから、いつか呼んでくれよな。

そうだよ、葛。
約束したんだ。
風蘭と、誓ったんだよ。
またふたりで、上海に戻ろう、
そうして、悠久なる長江に繋がる、黄浦江の風に吹かれて、
サッスーンハウスの右を通り抜け、まっすぐ進んで、ガーデンブリッジを渡ろう。
ほら、ロシヤ領事館の向こうに、アスターハウスが見えれば…
そこは、おれたちが一緒に過ごした、虹口だよ。

また、あの家の鍵を開けて。
あのリビングで。
おれと、おまえと、風蘭と―――、雪菜や棗も誘ってさ。
今度は、皆でいっしょに写真を撮ろう。
おれが撮影、おまえが現像。
おれとおまえで、当代一の出来にしようぜ。






―――なあ、いいだろ?葛―――。

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