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『閃光のナイトレイド』についてのあれこれをだらっと書いていきます。 まずは一番上の記事「どうもこんにちは」をお読みください。 勲葛がだいすきです!
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# 出てくる敵は 皆々倒せ、進めや進め 皆々進め―――

「ぱっぱらっぱぱっぱっぱっぱ、ぱっぱらっぱぱっぱっぱっぱー!!」
琢磨の前を走りながら、西尾が大きな声で進軍ラッパの口真似をする。
「琢磨、速く駆けろ! おれたちは帝国陸軍だ! 露助どもを今から撃破する!」
「拓ちゃん、待ってよ!」

当時、日清日露の戦争ごっこが子供たちの間ではおきまりの遊びだった。
勿論、必ず勝つのは日本である。
そうなると、子供たちの中で権力のある者――所謂餓鬼大将――が、必ず日本軍となるのだ。
戦争ごっこは、少数では面白くない。
だから、このあたりの餓鬼大将である西尾は、今日も十数人に召集をかけ、その勝敗が決まりきった遊びを始めた。
毬栗頭の子供たちが、わらわらと各陣地へ散ってゆく。
ごっこ用にみんなで掘った蛸壺へ一目散に駆けて行くもの、意味のない匍匐前進をするもの――
生意気盛りの子供たちは、はちきれんばかりの雄叫びを上げて、お互いの士気を鼓舞した。

西尾拓と岸田琢磨は、不思議と気が合った。
同じような名前を持つことも、二人の間に子供じみた連帯感を持たせていた。
西尾は餓鬼大将なだけあって、我が強い。
しかし、それだけでは唯の我がまま坊主で終わってしまうが、彼にはどこか人を惹き付けるものがあった。
子供心にも琢磨はそれを感じ取っていたので、そんな西尾といっしょにいることが楽しかった。
だから、この『必勝』である戦争ごっこも好きで堪らなかった。

油蝉が遠くで鳴いたと思えば、頭上でミンミンゼミが喚きだす。
専らの遊び場である鎮守の杜は、夏色を満たし、生命の息吹が鬱陶しいくらいに渦巻いていた。
木々の隙間から漏れる木漏れ日が、乾いた地面に幻想的な模様を描く。
青い空に、鳥居の古びて茶けた朱色が滲む。

「岸田大尉、我が軍の趨勢はどうなっておる!?」
西尾『大将』が、後方から『偉そうに』聞いてきた。
戦争ごっこの醍醐味は、活動のような台詞回しだった。
これがきちんと言えるかどうかで、臨場感が変わってくるし、まるで本物の帝國軍人になったかのような誇らしさも感じられる。
腕白坊主たちは、競って難しい言葉をよく意味もわからずに使った。
ただ、西尾と琢磨は違った。
二人とも学問にも運動にも長けていて、違うのは身体の大きさとその気性くらいであった。
背丈は西尾のほうがやや大きかったので、琢磨はいつも走り負けた。
「いつか抜かしてやるからな」と、駆けっこで負けるたびに西尾に言っていた。
精神的にも、身体の大きな西尾のほうが早熟だった。
二人は世間的には文武に亘り双璧と見做されていたが、実際は餓鬼大将の西尾が琢磨の一歩先をいつも歩いていた。
琢磨は何かしらの勝負事に負けると、西尾に対しそれなりの悪態はついていたが、そんな立ち位置が別に嫌ではなかった。
祖母にそんなことを言おうものなら叱責されそうだと思ったので、表向きは悔しがったりもした。
また、琢磨は常に『正道』の二文字を基準に物事を見るが、西尾は違った。
琢磨の判断の斜め上方から、斬新な方向性を示唆してきたり、時にはまったく相反する意見を理路整然と述べ、琢磨を納得させてしまうこともあった。
そんな西尾の得体の知れぬ勢いに巻き込まれている状態が、琢磨にとってとても居心地のいいものだったのだ。

「はっ、現在ロシヤ軍と前線で睨み合っております!」
地面に腹ばいになりながら、琢磨は西尾『大将』に敬礼をし、そう答えた。
以前琢磨は「拓ちゃんが大将なら、ぼくは中将にしてよ」と迫ったことがあった。
餓鬼大将の西尾以上の階級には当然なれないので、次席の中将を希望したのだが、
「ばっかだなあ、琢磨。そんな高官ばっかりじゃ真実味がないだろ」
と、一蹴された。
最初は少尉を任命されたのだが、そこは琢磨も食い下がり、なんとか大尉でお互い手を打った。

「ふむ、我が軍と敵軍の員数は?」
西尾はカイゼル髭を撫で付ける真似をしながら、琢磨の横に匍匐で近づいた。
「我が軍5千、敵軍1万であります!」
琢磨は双眼鏡を見る動作をしながらそう答えたが、実際は味方は二人だけであった。
それは、西尾の好きな戦争ごっこの筋書きが、少数だが精強なる皇軍が、何倍ものロシヤ軍を打ち破る――という破天荒なものだったからだ。
西尾と琢磨はいつも勇敢なる日本軍、それ以外の子供たちは尻尾を巻いて逃げるロシヤ軍、という役割であった。
「よし、搦め手で行く。目標、二百十高地、距離、五メートル、二時の方向!! 援護する、走れ!岸田大尉!!」
「はっ!」
西尾『大将』の下知に、岸田『大尉』はがばりと起き上がり、土ぼこりをたてながら右前方の石段の裏目がげて走り出す。
その石段が全部で二百十あったので、二百三高地を文字ってそう呼んでいた。
この戦争ごっこの天王山は、いつもここであった。
開戦したばかりでいきなり決戦というのはなんとも陳腐な展開であったが、大概子供は面倒を嫌う。
後方で「ばばばばばばば、ばばばばばばば!!」と 装弾数五、ボルトアクション方式のはずである三八式歩兵銃を、機関銃よろしく撃ちまくる西尾の声が聞こえた。
その十メートル横くらいのロシヤ軍陣地からも、ばんばんという銃声が聞こえた。
さすが数の多い敵陣地、子供たちがそれぞれに銃声の真似をしてやかましい。
中には大砲を撃ってくるものもいた。

石段の裏手は傾斜になっていて、緑が鬱蒼と茂っている。
琢磨は、その草叢の中に飛び込んだ。
続いて西尾もやってきた。
「大尉、無事か!?」
「はっ!何とか大丈夫であります!」
二人は背の高い夏草に隠れながら、額をつき合わせてお互いの無事を確認した。
急に、西尾がくつくつと笑い出した。
「?」
西尾が何故笑っているか理解できない琢磨は、首を傾げるしかない。
「琢磨、草のおばけみたいになってる」
曲がりなりにも戦闘中なので、笑い声をかみ殺しながら西尾はそう言った。
「さっき滑り込んだときについたんだな」
西尾は手を伸ばし、琢磨の顔についた草の切れ端や、緑の汁を拭ってやった。
西尾の、自分より大きい手に顔をごしごし擦られて、琢磨は思わず目を瞑った。
「ほら、とれたぞ」
「あ、ありがと…」
そう呟きながら目を開けると、西尾『大将』は鋭い口調で命令を発した。
一の谷の九郎判官、後鳥羽勢に相対する二品もかくやといった立派な口上である。
「これより二百十高地を攻略する!皇国の荒廃、この一戦に在り!各員一層奮励努力せよ!突撃ー!!」
木の棒を軍刀に見立て、切先を石段の頂上に向け、西尾は立ち上がった。
琢磨も地面を蹴って、石段の裏手の傾斜をよじ登った。
「拓ちゃん、それ東郷元帥だよ!」
「いいじゃんか、おれは日本海海戦も好きなんだよ!」
まことに勝手な西尾であったが、そういうところさえ琢磨は好もしく思っていた。
二人は後になり先になり、やわらかい腐葉土を踏みしだき、傾斜を登ってゆく。
石段のほうからは、複数の足音が駆け上がるのが聞こえた。
「岸田大尉、敵に遅れを取るなー!」
「はっ!」
はあはあと息を切らしながら、琢磨は必死に木の根や蔓を掴んだ。
頂上までは結構な高さがあったが、あともう少しで到着できそうだ、と琢磨は感覚的にわかっていた。
いつも登っている傾斜であるから、慣れたもののはずだった。
先に天辺によじ登った西尾が振り向き、琢磨に手を差し伸べて来た。
いつものことだ、それを取っていっきに登り詰めればいいのだ。
琢磨は西尾の手に己の手を伸ばすため、掴んでいた蔓を離し、同時に地面を蹴った。

ただ、今日はいつもより双方の手が汗ばんでいた。
それが不幸の始まりだった。
西尾の手に一瞬触れたのは確かだったが、次の瞬間には双方の手は離れていた。
「おい…っ、琢磨!!」
いつも自信に満ち溢れている西尾の顔が、さあっと青褪めるのを見たが最後、視界がふっと白くなった。
琢磨は、自分は『落ちて』いるのだとわかった。
その思考の片隅、遥か遠い、次元さえ異なるような遠い場所で、西尾が自分の名を絶叫するのが聞こえたような気がした。



「琢磨、琢磨ーーーーッ!!!!!」
叫びながら、がばりと上半身を乗り出し、崖の下に琢磨の姿を探す。
この高さから落ちたら、ただでは済まないだろうということが、西尾の胸を締め付けて離さなかった。
慌てて石段に回り、何事かと心配顔の仲間たちを振り切って、三段跳びで駆け下りる。
しかし、どこを探しても、琢磨の姿は見えなかった。
これではまるで、神隠しではないか――西尾は先ほどの光景を脳内で反芻させながら千々に乱れた己の思考をひとつに取りまとめようと試みた。
はあはあと乱れた息が落ち着くにつれ、ひとつの信じがたい結論に辿り着いたが、自分自身出した答えが非現実的すぎて眩暈がした。
「地面に落ちる前に、消えた…?」
西尾は、思わず口にしたその結論を振り切るように頭を振り、走り出した。
ともかくここは、何が何でも琢磨を見つけ出すのが先だ。
そう固く決意し、琢磨の名を呼ばわりながら、西尾は力の限りに走った。



とうに日は傾き、空は赤く燃え上がるかのように黄昏ていた。
遠くで蜩の鳴き声がして、それがやけに耳につく。
どのくらいの時が経ったのか、そしてここがどこなのか、琢磨には何もかもがわからなかった。
頭上から、黄色くなった竹の葉がはらはらと落ちてきた。
視界にゆらりゆらりと迫り来るそれが、とても現実のようには思えず、琢磨は横たえた身体を起こす気にはなれなかった。
意識が序々に明瞭になってくるにつれ、思考回路が正常に回りだした途端、左足の踵に激痛を覚えた。
「!…ひっ…!」
反射的に上半身を起こし、その痛みの原因に目を遣れば、自分の左足のすぐ傍に、割れた竹が血まみれになって転がっていた。
その鋭い切先が、己の左足を抉り、深い傷を刻んだらしい。
利発な琢磨は、咄嗟にポケットからハンカチを出し、その傷を覆った。
「…っ、」
瞬間、琢磨は世界の中で、自分ひとりぼっちになったかのような恐怖心に襲われた。
黄昏時は逢魔ヶ刻―――
昔、祖母から聞いた怪奇譚が思い出され、背筋に寒気が走る。
蜩の声は遠のき、鴉のギャアギャアという鳴き声が頭上を旋回する。
生暖かい風が、竹林をざわざわと揺らし、それが異界からの囁きに聞こえた。
―――泣いてはいけない。
男子たるもの、簡単に涙を見せてはならぬ、と、祖母に教えられてきた。
ただ、そう思えば思うほど、琢磨の喉は引き攣れ、左足を激痛が襲う。
―――痛い、痛くない、痛い、痛くない。
傷口がどくんどくんと脈をうつ音が、脳内に響き渡る。
もう駄目だ、誰か助けて―――、自暴自棄に近い衝動が涙腺を駆け抜けようとした瞬間だった。

「琢磨ーっ! 琢磨ーー!!」
自分を必死に呼ぶ声が、藪の向こうから近づいてきた。
「た…く、ちゃん…?」
声にならない声で、西尾の名を呟く。
琢磨が呆けている間にも、自分を探す足音が近づいて、目の前の茂みを割った。
「琢磨…っ!!」
今まで一度も見たことがない、顔面蒼白の西尾が、そこに居た。
ハアハアと息を切らし、琢磨の姿を認めると、その前に膝を折って長い長い安堵の息を吐いた。
「良かった…っ、お、おれ…、おまえが神隠しにあったかと…!おまえが突然いなくなっちまって、どうしたらいかわからなくって…っ」
ようよう顔を上げ、困ったように笑った西尾を見て、琢磨の我慢の限界がきた。
こんなに大声を出して泣いたのは、ここ数年まったくなかった。
西尾の前で泣くのも、初めてだった。
しゃくり上げすぎて苦しくて、上手く泣けていない琢磨に、西尾は慌てた。
自分が好敵手であると認めてきた琢磨の、このような顔を見るのは初めてで、どうしていいかわからなかった。
だから、好きなようにすることにした。
西尾は泣きじゃくる琢磨の背に手を回し、落ち着かせるように撫でてやった。
友の手の暖かさに、琢磨は縋った。
西尾はそれを拒まず、背中を擦りながらじっと琢磨が泣き止むのを待ってやった。



暫くすると、琢磨も落ち着いてきた。
日はもう地平線の彼方に半分以上隠れてしまっている。
かさかさと、地面で竹の葉がつむじを巻いた。
西尾は琢磨の足の傷を認めると、血を吸って濡れたハンカチをそっと解いた。

「琢磨」
呼ばれて、琢磨は顔を上げる。
「ここは、鎮守様から少し離れた竹林だ」
琢磨は、西尾が何を言わんとしているかがよく呑み込めなかった。
「おまえは、ここまで…きっと」
「きっと?」
不安げに瞳を揺らし、琢磨が鸚鵡返しに聞く。
「きっと、瞬間移動、してきたんだ」
「…!そんな馬鹿な…!」
「おれだって信じられないよ…、でも、これは現実に起こったことだ。だったらなぜおまえはあの高さから落ちて、全身打撲ではなく竹で足を切ってるんだ?」
西尾の慧眼が、琢磨の瞳を捉える。
その強い光の前に、琢磨は何も言えなくなった。
是も非も判断できない、そう逡巡を始めた琢磨に、西尾はぽつりと言った。

「…言わないよ」
「…え」
「このことは、誰にも、言わない。 …一生、言わない」

静かに、だが根底には強靭な決意を込めて、西尾はそう続け、琢磨の左足を取った。
「痛…っ」
痛みに顔を歪めた琢磨をちらりと見、西尾はその傷口を舐めた。
「…!」
舌が傷口に触れる感触に、琢磨は思わず目を閉じ肩を竦める。

「このことは、」
西尾は、転がっている割れた竹の破片を握ると、信じられない行動を取った。
「拓ちゃん…っ!」
琢磨は卒倒しそうになった。

「…二人だけの、秘密だよ」
西尾の左足から、鮮血が滴り落ち、地面を赤く染めた。
「これが約束の証」
琢磨の双眸に映った西尾は、そう言って笑顔を作った。
琢磨の大好きな、いつもの笑顔であった。
その瞬間琢磨は、生まれて初めて味わう、見えない鎖に絡め取られたような、奇妙な感覚を覚えた。
ただひとつわかっていたことは、その感覚は心地の悪いものでは決してなかった、ということだった。






昨日、大衆浴場で殺人があった。
上海ではよくある話で、血生臭さに慣れきった人々はさほど興味を示さない。
葛は、葵からその一報を聞いた。
「そうか」
葛は一言そう言っただけで、あとはいつもどおり淡々と仕事をこなしていた。
暗室に籠もり、薄暗い光のもとで現像作業を始める。
遠くで蝉の声がする。
夏は、好きだったか、嫌いだったか―――どちらでもいいような気もした。
汗が頬を伝う。
葛はそれを手の甲で拭う。
次に頬を伝ったのは、汗ではなかった。
瞬間、ジジ、という鳴き声を残し、蝉は飛び立っていった。








思わず5話を見返してしまって…前からあたためていた自分だけが楽しいネタを晒してしまいました;
サブタイもすごい雰囲気あって好き! この回は異色かつ白眉だと思う個人的に…!

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